2020/美しい余白の詩
そこにはいつも美しい女が一人で立っていた
とりあえず話し掛けてみた
「はじめまして、こんばんは。私は名乗れる程の者じゃありませんが、それでも構わないなら、もし宜しければ、つかぬことをお尋ねしますが、そんな美しいお姿で一体何を待っているんですか?」
すると女は黙ったまま優しく微笑んで消えた
そんな稀な余白
そこにはいつも勇ましいフリしたショボイ男が1人で踏ん張って立っていた
見るからに面倒臭そうなので無視して立ち去ろうとしたら向こうから声を掛けてきた
「…いや、お前、それはないだろう?…ちょっと待ってくれよ。俺の話を聞いてくれよ」
やなこった
そんないくつめかの腐った余白
そこにはいつも優しい女が公園のベンチに座って一人で読書しながらペットボトルの紅茶を飲んでいた
とりあえず困った
「はじめまして、おはようございます。今日の天気は曇り空ですね。何を読んでいるんですか?」
すると女は黙ったまま本を閉じて何も言わずに立ち去った
そんな虚しい余白
そこにはいつも表面のカッコだけ付けた色々無理がありそうな男が虚勢を張って歩いていた
特に俺とは何の接点もなさそうなのでスルーしようと思ったら向こうは足を止めてジロジロとこっちを舐め回す様に視力を使ってきた
「うーん、超メンドクセー。何の価値もない。時間の無駄。何の確認?ケンカしたいならしましょうか、いや、俺は手を出せないですけども」
最初からバレバレ
そんな浅はかで下らん余白
そこにはいつも愛くるしい女が1人で泣いていた
さて、どうしよう?
「どうされましたか?お嬢さん。うるさいわね!放っといてよ!分かりました、放っときます。何ソレ!声を掛けてきたんだからもっと困った顔しなさいよ!いや、俺もそんなに暇じゃないんで」
何の話だったっけ?
そんなダメな方の余白
そこにはいつも暗い顔をした男が遠くを見つめて一人で寝転んでいた
これは誰だ?
「生きてるかい?知らねぇよ。元気かい?うるせぇよ。何だ?お前。お前こそ何だ?俺は俺だよ。いや、俺も俺だよ。お前はお前だろうが。いや、お前こそお前だろうが。あぁ、そうだよな。あぁ、そうだよ。いや、悪かった。いや、こっちこそ」
ヨシ、ちょっとだけ一緒に旅しようか
そんな気合いの入った余白
あれ?
結局、美しい余白は最初だけじゃん、と気付く
そんな余白も
あんな余白も
こんな余白も
何かたまにはやっぱり必要だ