2021/ 雪風の正体
それは静かに微笑みながら
例えばサバイバル・ナイフで全身をメッタ刺し
されている様な気持ちと書けば正しいか?
稀に山間を縫う様に吹く突風はそんな感じ
それも痛くて冷たくて殺伐としてて気持ち良い
そしてまた性懲りもなく
俺は不思議な時間が止まった場所に迷い込む
「あら?いらっしゃい、1人?」
そう誰もいない山頂で美しい女が聞いてきた
「はい、1人ですが」
そう俺は虚しく本当を返す
「それはとっても嬉しいわ」
一体、アレは何だったんだろうか?
「どうしてここにいるんですか?」
とりあえず恐る恐る質問してみる
「いつも私は貴方みたいな男を待っているの」
そう女は透き通る様な笑顔で答えた
「俺みたいな男ですか?」
「そうよ」
「ふぅ~ん」
「貴方は私が見えるんでしょ?」
「いや、見えなきゃ話さないですよね」
「そうかしら?」
「そうですよ」
「まぁ、いいわ。それよりどうして1人なの?」
「そこは放っといて下さい」
「そうはいかないわ」
「どうしてですか?」
「私も1人だからよ」
「へぇ~」
「世間は私のことを雪女と呼ぶわ」
「なるほど」
「貴方は私が怖くないの?」
「いや、白くて聡明で美しいなァ、と」
「口説いてるの?」
「いや、素直な感想を言っただけです」
「ふぅ~ん」
「そんじゃ、俺、帰ります」
「えぇ、また私に会いに来てね」
「はい、1人なら」
「それが正解よ」
「誰かと来たら?」
「姿を見せずに優しく呪い殺してやるわ」
「なるほど、ラジャーです」
それが雪風の正体だったんだろうなァ、と
来年も1人なら
また美しい雪女さんに会いにゆこう
今度はあたたかい缶コーヒーでも手土産にして
驚いて楽しく笑ってくれる様な話を考えて
何の下心も持ち合わせないで
ただ幸せな気持ちでお喋り出来る様に